数年前にお亡くなりになられたご依頼人の旦那さんの蔵書整理でお伺いしました。今回で2度めの訪問です。旦那さんは生前、大学の教壇で現代ヨーロッパ社会について講義をされており、ご専門は第2次世界大戦前後のドイツ・オーストリアのようです。前回はドイツ語で書かれた学術的なナチスドイツ専門書などを一括で買取させていただきました。その時の条件が、なるべく散逸しないよう必要な方へ橋渡しをして欲しいということでしたので、神田の東京古書会館で行われた洋書会大市に出品しご依頼人の希望を実現することが出来ました。
今回は前回同様ドイツ語・英語で書かれたナチス関連の大量の書籍に加え、日本語の関連書籍が中心でした。
かなりの本に書込み・メモ書きが見られ読み込まれているのがわかります。古本相場的には書込み等はマイナスポイントになってしまうのが一般的ですが、これほど専門的なものであれば商品価値がなくなるというものでもありません。むしろ研究者の痕跡本という意味では、これから学習しようとする方からすれば付加価値を見出す可能性もあるかもしれません。
ご依頼人である奥様のお話では、当店を呼ぶ前に1冊1冊手に取り書込みが激しい本は買取に出さないようにしているということでした。そのようなお気遣いはされなくても大丈夫ですよと伝えたのですが、「主人は口数が多い方ではなかったので、生前どのようなことを考えていたのか本の余白に残された書込みから少しでも読み取れるかと思って分けているのですよ」と笑顔でお話しされているのを聴き、少々ジーンとくるものがありました。
応接間の壁2面には天井まである書棚に専門書が並べられています。まだまだ2階にもたくさんあるそうです。「少しずつ整理していきますのでまたよろしくお願いします。世界中が穏やかでない時節ですから、平和のための学問に主人の本が役立ってくれると嬉しいですね」とにこやかにお話されている姿が印象的でした。